富山 和也 [研究紹介,研究者総覧, 関連サイト]
川村 彰 [研究紹介,研究者総覧]
道路利用者の安全性・快適性を確保し、円滑な交通を提供するためには、人・車・道路の連携を考慮した総合 的アプローチが不可欠である。このことから、本研究室では、様々な道路特性に関して、車の走行挙動やヒューマンファクタを考慮し、利用者ニーズに即した人間中心の新たな 分析・評価方法について研究を行っている。
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当研究室では、道路特性のうち路面特性に関連した研究をこれまで実施している。それらは主に、(1)路面プロファイル特性、(2)車と路面の相互作用、(3)道路利用者への影響評価及び(4)舗装マネジメントシステム(PMS )に関するものである。
KITDSの外観
本研究室固有でユニークな実験施設としては、2003年に導入した「路面評価型ドライビングシミュレータ」がある。従来、道路・交通工学分野におけるドライビングシミュレータ(以下DS)は、主に道路の線形設計や視認性研究に利用されてきた。本研究室DS(KITDS)の原型は安全運転教育用に開発されたものだが、新たに実路の(1)路面特性データ(路面プロファイル、すべり摩擦係数)、(2)車両運動データ(加速度、角速度など)及び(3)フロント視界画像データの再現機能を追加し、乗員の快適性・安全性、車両の操安性・走行費用(燃費、車両耐久性)及び沿道環境(騒音、振動)などに影響を及ぼす路面評価を可能にしている。また、本研究室では、KITDSをヒューマンファクタに基づく道路診断のためのインターフェース(HRI:Human-Road-Interface)と位置付け、路面評価に特化した研究も行っている。
道路利用者は,常に走行路面由来の車両振動に曝露されるにも関わらず,今日問題となっている道路交通環境下での生体疲労評価において,走行路面性状が及ぼす影響は明らかにされていない.そこで,走行路面性状に起因する生体疲労を「受動疲労」と定義し,非拘束脈波モニタリングによる受動疲労に着目した,新たな走行路面管理手法の開発を行なっている.
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本研究は路面損傷由来の生体疲労に着目しエンジニアリングデザインとヒューマンファクタのギャップを埋める新たな学術研究に挑戦している |
生体疲労計測に基づく時間依存性を考慮した合理的な走行路面評価手法の開発,科研費 若手研究(B),代表 富山和也,2015〜.
従来のアンケートによる乗り心地の評価方法では,路面に局在する損傷や,事前の経験や期待値により,利用者の評価が歪められる可能性があった.これまでの研究[1]から,心電図計測による心拍変動の連続ウェーブレット変換により,自律神経系活動に着目することで,走行路面に起因する潜在的メンタルストレスの把握が可能であることを明らかにしている.本研究では,より簡便かつ非拘束・非侵襲な生体計測により,受動疲労に着目した,客観的かつ合理的な路面評価方法の開発を目指している.
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路面評価型ドライビングシミュレータを用いた指尖脈波による心拍変動計測. | 心拍変動の連続ウェーブレット変換例:路面損傷区間で車両振動に起因するストレスにより心拍変動の高周波成分(HF)の減衰が確認できる. |
心拍変動の低周波成分(LF)と高周波成分(HF)の比(LF/HF)が,時間変化に応じたメンタルストレスの緩やかな適応に関連し,受動疲労の発現に関わることが確認できた.また,HFは,短時間で生じる瞬間的なメンタルストレスの影響を受けることが明らかとなった[2].
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心拍変動指標(LF/HF)と路面指標(国際ラフネス指数:IRI)の回帰係数(縦軸)と試行回数(横軸)の関係:路面状況が悪化するとLF/HFが高くストレス状態となり,走行回数(1試行当たり約10分)が多くなるにつれ,ストレスが増加することを示している. |
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心拍変動指標(LF/HFおよびHF)とIRIの関係:LF/HFは,HFの持続時間に応じた増加の影響を受けることから,受動疲労を把握するため,LF/HFとHFの交互作用を考慮したモデルを構築した.また,幹線道路を対象とし,受動疲労を考慮したIRIの許容水準について検討したところ, 5.2mm/mが目安となることを明らかにしている. |
【参考文献】
[1] 富山和也,川村 彰,高橋 清,石田 樹: 生体情報を利用した路面乗り心地に基づく舗装の健全度モニタリング,土木学会論文集F3(土木情報学),Vol.67,No.2,pp.I_125-I_132,2012.
[2] 富山和也,川村 彰,Riccardo Rossi,Massimiliano Gastaldi,Claudio Mulatti:心拍変動解析に基づく精神疲労を考慮した路面平坦性評価,土木学会論文集 E1(舗装工学), Vol.71, No.3,I_1-I_7,2015.